犬の皮膚病で最もよく見られる膿皮症。一度かかると「なかなか治らない」「繰り返す」と悩む飼い主さんも多いです。この記事では、膿皮症の治療法——特に現在主流となっている外用療法と、抗生物質との正しい付き合い方について詳しく解説します。
膿皮症の治療の基本
膿皮症の治療でまず大切なのは、皮膚の表面にいる細菌の数を減らすことです。細菌数が減れば、通常は皮膚が本来持っている自己治癒力によって、少しずつ正常な状態に戻っていきます。
治療法は主に2種類
膿皮症の治療には、大きく分けて次の2つの方法があります。
- 外用療法(シャンプー・消毒・保湿など)
- 内服療法(抗生物質の飲み薬)
現在は外用療法が主流
以前は「セファレキシンという抗生物質を2週間使えば95%の膿皮症は改善する」と言われていた時代がありました。私が獣医になった約20年前まで、内服療法が圧倒的に主流でした。
しかしこの数十年、膿皮症に限らずあらゆる場面で抗生物質が使われすぎてきた結果、一般的な抗生物質に対して**耐性を持つ細菌(薬剤耐性菌)**が世界的に増加してしまいました。
特に問題なのがメチシリン耐性菌です。ペニシリン・セファレキシン・アモキシシリンなど、よく使われるβ-ラクタム系抗生物質がほぼ効かなくなる細菌で、現在は大きな医療問題となっています。
こうした背景から、現在はまず外用療法から始めるというのが、獣医皮膚科の世界標準の考え方になっています。

犬の耐性菌(MRSP)とは?
人の医療でMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という言葉を聞いたことがある方もいると思います。犬の場合は菌の種類が少し異なり、MRSP(メチシリン耐性スタフィロコッカス・シュードインターメディウス)と呼ばれます。
これが近年非常に増加しており、一般病院で約30%、大学病院など高度医療機関では60%以上の膿皮症症例からMRSPが検出されています(2021年獣医皮膚科学会発表)。
犬のブドウ球菌は通常、人に病気を引き起こすことはほとんどありません。ただし、同居する方が高齢だったり免疫抑制剤を使用している場合は、一定のリスクがあります。また耐性菌を持つ犬が将来肺炎などの感染症にかかった際、有効な抗生物質がほとんどないという深刻な事態になりかねません。
耐性菌は抗生物質の使用によって生まれてくると考えられています。耐性菌を増やさないためにも、抗生物質をむやみに使わないことがとても重要です。
外用療法の具体的な方法
外用療法では、次の3つを組み合わせて行います。
① 消毒 クロルヘキシジンという比較的刺激の少ない消毒薬で患部を消毒します。細菌はわずかに残るとすぐ増殖するため、1日2回の消毒が目安です。



② シャンプー・薬浴 抗菌成分が配合されたシャンプーや薬浴を週2回程度行います。余分なフケや分泌物は細菌のエサになるため、清潔に保つことが大切です。マイクロバブル・ウルトラファインバブル・炭酸水を使った薬浴も有効です。
③ 保湿(スキンケア) シャンプー・薬浴後は必ず保湿を行います。皮膚のバリア機能を整え、菌が皮膚の内部に入りにくい環境を作ることが目的です。
まとめると、
- 菌を洗い流して絶対数を減らす
- 菌を殺菌・抑制する
- 皮膚の状態を整えるスキンケア
この3本柱が外用療法の核心です。
治療は飼い主さんとの共同作業
外用療法は、薬を飲ませるだけの内服療法と比べて、飼い主さんの日々の関わりがとても重要になります。大変だと感じることも多いと思いますが、その分治療効果も高く、耐性菌のリスクも抑えられます。
「どうしても続けられない」「シャンプーが難しい」という場合は、遠慮せずに相談してください。病院でシャンプーや薬浴をサポートできる場合があります。
膿皮症が繰り返す場合は背景を調べる
膿皮症は、他の皮膚病が原因となって起きていることがあります。治りにくい場合・繰り返す場合は、背景にある病気を調べる検査に進むことがあります。
2025年現在、繰り返す膿皮症の多くはアレルギーを背景に持つと考えられています。そのため、繰り返すケースでは原因を特定しながら、かゆみ止めや抗炎症作用を持つ内服薬を併用していくことが一般的です。
【 まとめ文 】
膿皮症の治療は「抗生物質を飲む」だけの時代から大きく変わっています。外用療法を軸に、スキンケアを根気よく続けることが、再発を防ぐためにも重要です。繰り返す場合はアレルギーなどの背景疾患の検索も大切ですので、お気軽にご相談ください。
