犬の体に突然できた円形の脱毛。「ストレスでしょうか?」「家が汚いのでしょうか?」——そんな心配をされる飼い主さんはとても多いです。実はこの症状、多くの場合は膿皮症という細菌感染による皮膚病が原因です。犬でもっともよく見られる皮膚病の一つで、決して珍しい病気ではありません。この記事では、膿皮症の原因・症状・よくある疑問について獣医皮膚科認定医が解説します。
膿皮症とは
膿皮症(のうひしょう)は、細菌感染によって起こる犬の皮膚病です。英語ではPYODERMA——PYOは「化膿」、DERMAは「皮膚」を意味します。名前は少し物々しいですが、大きな傷が化膿しているようなものとは異なります。
犬の皮膚病の中で非常によく見られる疾患で、アトピー性皮膚炎・内分泌疾患・ニキビダニ症など他の皮膚病に併発することも多い病気です。

原因となる細菌
膿皮症の原因はほとんどの場合ブドウ球菌です。人でよく聞く黄色ブドウ球菌とは異なる種類で、犬では主にStaphylococcus pseudintermediusが原因となります。顕微鏡で見るとブドウの房のように球状の菌が集まって見えることからこの名前がついています。

重要なのは、この菌は健康な犬の皮膚にも普段から存在している常在菌だという点です。外から持ち込まれるものではなく、皮膚のバリア機能が何らかの原因で低下したときに、菌が皮膚の内部に侵入して炎症を引き起こします。これを日和見感染と呼びます。


症状
膿皮症の典型的な症状は円形の脱毛です。病変の周囲が赤くなり、フケ(鱗屑)が付着していることが多いです。
初期には皮膚に小さな盛り上がり(膿疱)ができます。これがはじけると周辺に広がり、円形の脱毛部が形成されます。脱毛部の中央は治癒とともに黒っぽくなることがあります(色素沈着)。



また、薄い毛色の犬——薄茶色のプードルやグレーのプードル、薄茶色のダックスフンドなど——では、膿皮症になった部位の毛色が濃くなることがあります。半年ほどで周囲の毛色と揃ってくることが多いので心配しすぎなくて大丈夫です。
診断には皮膚検査が重要です。病変部にセロハンテープやスライドグラスを押し当てて染色し、顕微鏡で細菌を確認します。見た目が似ている皮膚糸状菌症(カビによる皮膚病)との区別にも検査が必要です。
発症の仕組み
皮膚の表面にある角質層はレンガとモルタルのような強固な構造を持ち、健常な状態では表面に細菌がいても皮膚の内部には侵入できません。
ところがこの構造が崩れると、細菌が皮膚の内部や毛孔の中に入り込んで炎症を起こします。バリア機能が崩れる原因として代表的なものが——
- アトピー性皮膚炎・食物アレルギーなどのアレルギー疾患
- 内分泌疾患(ホルモンのアンバランスによる病気)
- 乾燥・掻き傷などによる皮膚へのダメージ
です。繰り返す膿皮症の場合は、こうした背景疾患の検索が重要になります。


よくある疑問
Q. 家が汚いから? 散歩が原因?
A. 関係ありません。膿皮症の原因菌は犬が元々持っている常在菌です。環境の汚染や散歩先の影響で起こるものではありません。
Q. ストレスが原因ですか?
A. ストレスはあらゆる病気の悪化因子になり得ますが、膿皮症の直接的な原因ではありません。円形脱毛症(免疫が関係する別の皮膚病)とは異なります。
Q. 皮膚が黒くなったけど大丈夫ですか?
A. 大丈夫です。犬の皮膚は炎症の後に色素が沈着して黒くなることがよくあります。良好な状態を保てれば、多くの場合ゆっくりと元の色に戻っていきます。
Q. どこから移ったんですか?
A. どこかからうつったわけではありません。膿皮症の原因菌は犬が生まれた時から皮膚に持っている常在菌です。他の犬や環境から感染するものではなく、何らかのきっかけで自分自身の菌が皮膚の内部に入り込んで炎症を起こした状態です。
Q. カビ(皮膚糸状菌症)ではないですか?
A. 人の水虫のように、カビ(皮膚糸状菌)による感染症も円形の脱毛を作ることがあります。見た目が似ているため混同されることがありますが、犬で皮膚糸状菌症が起きることは比較的まれです。ただし見た目だけでは区別が難しいため、皮膚検査できちんと確認することが大切です。
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