• ある忘れられない症例
  • 傷は湿らせて治す
  • 正しい傷の治り方
  • 動物の創傷管理はなかなか難しい
  • 手術になることも・・
  • 皮膚科領域への創傷治癒の応用

1.忘れられない症例。何故皮膚が伸びずに止まってしまう?

それはもう20年の昔。最初に勤めていた動物病院で出会った忘れられない症例。猫の大火傷。当時の院長が何度皮膚移植をしても定着せず長く患っていた症例の可哀想に赤剝けた部分を見つめながら。。

どうして皮膚が途中で止まってしまうんだろう?って考えた。毎日のように見つめて考えた。。

ただ、その時は結局その病院を退職し、役に立たないまま終わってしまったんだ。ものすごく印象深い症例として記憶に残ったまま。

2.そして出会った「傷は湿らせて治す」という考え方。

そして数年が経過した時に「湿潤療法」という考え方に出会ったんだ。

それは夏井睦先生のブログ。「傷は乾かしてはいけない」「消毒とガーゼをやめよう」から始まる理論はそれまでの常識を覆すものだった。その後10年ほど経過して、キズパワーパッドが商品化されるなど新しい常識として社会に広く受け入れられるようになってきたことをある程度医学に興味のある方ならご存知だろう。

3.正しい傷の治り方

正しい傷の治り方を説明するとこんな感じ

皮膚=上皮が欠損してしまった場合、毛穴の上皮細胞が分裂し、移動して傷を覆っていこうとする。傷ができると突然表面に出された(普通は真皮などに隠れているはずの)血小板などの細胞群から傷を治すための成分が分泌される。

創傷の表面が適度に湿っていてこれらの成分が薄く広がっていれば、それらを信号と栄養として上皮細胞がアメーバーのように移動して新たな皮膚を作っていく。

ところが、傷表面が乾燥していると上皮細胞アメーバーちゃんたちは移動できない。湿りすぎて足場になるはずの肉芽組織がブヨブヨと盛り上がってしまっても、上皮細胞は下にもぐってしまったりしてうまく皮膚になってくれない。

今では「日本創傷治癒学会」とか「日本褥瘡学会」というものもあり、介護領域、特に褥瘡の管理などにこの考え方はかなり取り入れられている。(ただ、前述の夏井先生は色々な理由で学会に所属しなくなってしまったらしい。。)

学会に入ったりネットや本でたくさん勉強してようやくあの時の火傷の症例が理解できた。

ところが。。

4.動物の創傷管理はなかなか難しい

動物には毛がある。傷を子供のように手加減せずに擦ったり噛んだりしてしまう。舐めてすぐ汚染してしまう。毛で覆われていて発見が遅いこともある。ドレッシング材が高価。包帯とかがズレやすいなど中々に傷の扱いは人と違う難しさも含む。

動物領域でも湿潤療法は少しづつ広まってきているけれど、「湿潤療法」という言葉が独り歩き?して湿らせてれば良いという雑な管理をされていたり、交換の頻度が適切でなかったり、化膿しているのにずっと過剰に湿潤にされていたりとかえって悪化させてしまうこともある。

傷の状況は変化するので通院が適切でないと、いつからか慢性の治らない傷に移行してしまっていることもある。

5.手術になることも。。

管理が悪くて長期経過していると傷の底部「肉芽」の状態が悪くなってしまって、もう何をやっても治りにくい組織に変化してしまう。そうなると手術の出番。

皮膚がなくなってしまった傷の状態はあまりにも様々で、そういう外科に精通した先生って案外少ない。で、ドレッシングと外科と、症例の多い病院で勉強を深めたいなということで参加させてもらっている病院が大田区の動物病院エルファーロ

私は皮膚病の内科を主に担当しつつ創傷治癒の勉強もさせてもらっています。

6.皮膚科領域への創傷治癒の応用

実は皮膚病にも少し創傷治癒の知識を応用しています。なぜなら舐め壊しや掻き壊しは糜爛(皮膚に所々ごく浅い欠損が生じている)が生じた創傷だと思うから。よく説明するのだけど、舐めたり擦ったり掻いたりして赤剝けてしまっている部分は、今度は靴擦れみたいな痛みになって、舐めたり噛んだりが止まらなくなってしまっているのだと思うのです。

こういう傷は汚染していることも多い。それなのにステロイドの外用なんか塗られていると余計に傷が痛くなってしまうこともあるし、余計に深くなったり治りにくくなってしまう。

赤剥けが深くてずっと気にしている時にちょこっと工夫してあげるだけで、魔法のように気にしなくなってくれることさえある。傷の状態を気にしてあげるのは優しさだと思うのです。

創傷治癒の知識を応用した症例の紹介 →

*動物病院エルファーロさんでは「湿潤療法」についてもっと詳しい説明があります。湿潤療法についてもっと詳しく勉強したい方はこちらをどうぞ →

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