トイ・プードルでよく遭遇する脂漏症とマラセチア皮膚炎の症例。皮膚科診療って検査漬け?結局薬漬け・・いえいえ、そうでもないですよ。ってお話。。
動物病院エルファーロの症例です。
ある日相談を受けた6歳避妊雌のトイ・プードルさん。全身真っ赤でとっても痒そうです。

痒み指標で言えば9/10。飼い主さんとお話している間も何度も診察台の上で後ろ足でカイカイしていました。
実は、人気のプードルさんは脂漏症に陥りやすい、しかも重度の症例が多い犬種なんです。
元々プードルという犬種は撃ち落とした鴨を水を泳いで取りに行く犬種だったんです。ですから乾きやすい様に脂っぽい皮膚と被毛を持つ犬が選択されてきたのではないかしら?
こういう風に元々脂っぽい皮膚と被毛を持つ犬種は
”遺伝的に脂漏症に陥りやすい” 素因があるということになります。
この子は典型的な全身の脂漏症でした。皮膚検査をするとマラセチアも検出されました。

眼の周り、肘の曲がるところ、後ろ足の踵の曲がるところ、胸部から腹部にかけて皮膚は厚くなってシワシワです。お腹側の皮膚もシワが深くなって下腹部は黒っぽくなっていました。中でも足先は痒そうです。黄色っぽい脂っぽいフケが細かくたくさん付いているのが分かりますか?外耳炎もありました。
つまり、脂漏症からマラセチア皮膚炎になっている感じですね。






既にアレルギー用の療法食は1種類試していて、おやつもお米のボーロだけにしているとのこと。ただ、あまりお薬に頼りたくないという飼い主さんのお考えがあり、ほとんど投薬はされていませんでした。
さて、どうしましょう?
発症年齢は1−2歳で、季節性ははっきりしないけど少しあるみたい?アトピー性皮膚炎なのか、食事アレルギーなのか。。
検査をして対応を検討したいところではあります。でも食事も環境中の抗原のアレルギーも全部検査しようとするとかなりの高額になってしまいます。
では検査せずにとりあえず少しでも改善させるためにはどうしましょうか?
実はこのくらい重症だと最近流行りのアポキルやサイトポイントは効かないことが時々あります。迷いに迷って皮膚科診察に来てくれて、高い薬出したのに効かなかったらがっかりしますよね。
一方、昔から使われているステロイドやアトピカ(サイクロスポリン)はかなり確実に効いてくれるとは思います。
でも、飼い主さんはあまり薬を使いたくないというご意見でした。
そこで、まず初日から部分的にでも病院で薬浴(シャンプー療法)をしてみることにしました。皮脂と毛がベタベタに絡み合った足先は相談の上毛を刈らせていただくことにしました。脂漏症の管理には毛刈りはとても有効だと思っています。

そこで、マラセチア皮膚炎や脂漏症に効果のあるシャンプーを1週目は足先、2週目は後ろ足の曲がるところや脇の下、3週目は陰部周辺や頸部、腹部と、本人の負担も考えつつ徐々に範囲を広げて実施しました。シャンプー後は保湿剤でしっかり保湿し、シワシワに皮膚が厚くなった部位にのみ少量のステロイドの外用を塗布しました。
さて、4回目のシャンプー前の様子です。






すごくないですか?
シャンプー回数を追うごとに痒みがどんどん減少し、ほとんど掻かなくなったとのこと。
おやつは制限していますが、食事も変更せず、飲み薬は何も使っていません。何よりもわんこがとても元気になって、よく遊ぶ様になったとのことで、飼い主様もとっても喜んでいただけました。
スキンケア大事ですね
ところで、この子は今まで何度も皮膚科の受診をお勧めされていたそうなのですが、
「 薬漬けになるのではないか?薬と向き合っていく覚悟ができなくてためらっていた 」
とのことでした。
飼い主さんは皮膚科診療に関してそんな風に不安に思うこともあるのだなぁ、とこちらも勉強になりました。
治療には
- 検査で原因を明らかにして対応する
- 症状に対応して改善させる(対症療法)
とがあって、対症療法には内服薬(飲み薬)、外用薬(塗り薬)、スキンケアなどがあります。医療としては原因を明らかにして対応するのが理想だとは思うのですが、対症療法も上手に行えばほとんど治ると言えるまでになることもあるんですよね。
特に皮膚病の場合スキンケアは重要で、こんな風に飲み薬何もなしでほとんど治ってしまうことすらあるのです。この子は1ヶ月でこんなに良くなりました。
さらに、痒み指標も1-2/10とほぼ正常な子と変わりないくらいまで低下しました。
すごく遊ぶようになって元気になりましたー!なんて言われると
「この仕事やってて良かったー😭」と思いますよね😆
通院薬浴の間隔も段々空けていこうと思っています。