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狭窄性外耳炎1

外耳炎が治らない – その2 - 塞がってしまったつらいお耳

何ヶ月も何年もお耳がぐちゅぐちゅなんて可愛そうなワンちゃん達。理由と治し方があります。根気よく通院して手術を回避した症例(手術を否定するわけではありません。)

  1. 半年ほど他院で治療中もみるみる腫れ上がり悪化
  2. 菌を調べる
  3. 正しい洗浄とお薬の開始
  4. CT検査結果
  5. 治療経過
  6. そして元気に

1.半年ほど他院で治療中もみるみる腫れ上がり悪化

 他の病院で半年ほど治療しているのに悪化する一方という相談がありました。

お耳は両方とも腫れ上がり、ほとんど塞がっていました。ベタベタした分泌物が出てきて匂いも強いです。細いカテーテルがやっと入るような状態です。お耳の下側まで固く腫れ上がっていました。

 多くの病院ではこのような耳に対しては手術が適応と言われます。今後ケアの必要のない耳にするにはそれが唯一「治す」方法になるかもしれません。でも全部耳道を取ってほとんどお耳が聞こえなくなるのを受け入れるしかないのでしょうか?全耳道手術は神経症状などの合併症が多く、数ヶ月とか数年経過してから傷口がじくじくしてくるなどの障害も多く発生します。

 ところが

 こんなお耳でも多くの場合手術を避けて耳の不快感のほとんどない生活と普通のお耳の形状を維持することが可能です。

ただし、一生1ヶ月に1度程度の定期的な診察と耳洗浄が必要になるかもしれません。

 両方のお話をして、飼い主さんとしては今までの病院でも手術の話をされたけれどもまだ若いし、手術は絶対嫌なんです!というご意向でした。

 全身状態、悪化前後のお食事、身体の他の部位の皮膚疾患などについても診察します。

 四肢の指間などにかなりの発赤がありました。

 アトピー性皮膚炎や食事アレルギーの疑いがあります。足先はマラセチア皮膚炎です。

2.菌を調べる

 アレルギー検査を進めつつお耳の菌についても調べます。顕微鏡検査で、細菌が多くいる場合、私は最初に菌数をなるべく減らす治療をします。

 外耳炎は抗菌剤とステロイド、抗真菌薬のミックス剤点耳薬が使われることが多いです。この子もそのような処方とアポキルの内服を続けていましたが、ちっとも効いていないようでした。

 細菌を外注検査に出して、もっと効果的な抗菌剤がないかどうかを調べます。

薬剤感受性

 まだ効果的な抗菌剤があるようです。

3.正しい洗浄とお薬の開始

 入口付近のみ洗浄液を入れてクチュクチュもんだりしません。腫れ上がって痛いお耳はなるべく刺激の少ない方法でなるべく奥から洗浄して、悪い成分を排出するよう試みます。

 適切な抗菌剤の点耳薬や飲み薬を開始します。

お薬

 前回お話したように外耳炎は洗浄とお薬、原因の除去が大切。汚れをとって、微生物を減らし、炎症を取り、そして炎症の原因も探るという多角的なアプローチと根気が必要です。

4.CT検査結果

 中耳炎も疑われるためにCT検査も薦めました。(CTセンターを紹介します)

どうやら鼓膜は無事なようです!!鼓膜が破れている場合はリスクの度合いも高くなるので良かったです!まだ間に合うかも!!

5.治療経過

 少しだけお耳の入り口が開いてきました。少しだけ中も見れるようになってきました。

今まで悪化するばかりだったので、飼い主さんも嬉しそうです😀

6.そして元気に

 最初は1週間に2回の通院から始め、次に1週間に1回。内服薬や点耳薬を適宜変更しながら根気よく通院していただきました。半年から1年位かかりますが、すっかり入り口も普通のお耳になって、中もよく開きました。

 何より嬉しいのはワンちゃんが元気になって遊ぶようになりました、と言っていただけることです。あぁ私、この仕事していて良いんだなぁと感じます😂

お耳が治ってご機嫌
お耳が治ってご機嫌

 今でも6週間に一度くらい定期的にお耳洗浄をしていますが、それで調子よく過ごしています。

犬の皮膚病・外耳炎って?基本編

耳が臭〜い!黒い耳垢がいっぱい出てくる。汚れが多いと言われた。耳が赤い。痒がる。

・・これらはきっとみんな”外耳炎”です!

外耳炎とは・・・

外耳炎は犬の耳に炎症(赤い、痒い、腫れているなど)が起きてしまっている状態を言います。

耳にだけ炎症が起きる場合と、全身の皮膚病+耳の炎症となっている場合の両方があります。体の他の皮膚をみて何も発疹などがない場合でも実はアトピー性皮膚炎や食事アレルギー、食事反応性皮膚疾患などの一環として、今現在 ”耳にだけ炎症が発症している!” という可能性もあり、今後注意が必要です。

実は動物病院に来院するあらゆる病気の中で耳の異常を訴えてくるケースはとても多いです。統計で1,2を争う多さです。そう、

犬は外耳炎が多い

のです。

原因は様々・・

その1. シャンプーが入った。家でのお手入れの失敗

シャンプーが少々入っても十分流せば大丈夫ですが、液が残ってしまうと、常には酸性で細菌繁殖を防いでいる耳道の環境がアルカリ性に傾いて、細菌が繁殖しやすくなるとされています。

家でのお手入れでたまにあるのが、綿棒!!

綿棒!!

お薦めしません。

犬の耳道はデリケートで、市販の綿棒は大きすぎ、硬すぎです。2,3回擦ったらもうみるみる腫れてくるはずです。。。あと、ペットの本などでオリーブ油での手入れを薦めているものをみたことがあります。これも良くないです。

犬の耳には常在菌としてマラセチアという酵母菌がしばしば存在します。これは脂分が好きで、脂分が増えると過剰増殖して炎症を引き起こす、あるいは悪化させます。

お家でのお手入れは専用の洗浄液でたまにゆすいで、入口付近の汚れを柔らかく丸めた小さな綿花で優しく拭き取る程度に留めてください。

その2.異物

特に片側だけが外耳炎の場合、異物が原因になっていることがあります。異物は草のノギや、奥に落ち込んだ毛などです。他のページで詳しく説明しますね。

その3.全身の皮膚病の1つとして

アトピー性皮膚炎の多くが外耳炎を併発しています。また、食事アレルギーの犬の80%に外耳炎がみられたといいます。これらの病気が背景にある可能性もあります。今は耳だけだけど、年々他の部位に症状が出てくるというケースがあります。

その4.出来物ということも。。。

耳の奥、鼓膜まで耳鏡を使ってよく観察します。時にポリープのような出来物(しこり・・・腫瘤)が耳道を塞いでいて、慢性外耳炎の原因あるいは悪化因子になっていることがあります。この場合、一部を採材(全部取れる場合は取りますが!)して何の出来物なのかを調べます(病理検査:取ったものを処理し、検査施設に送付して細胞をみる専門家の意見を仰ぎます)。

治療

正常な耳道の皮膚は鼓膜から出口に向かって移動し、フケと汚れとを自然に排泄します。ところが、外耳炎が発症し、過剰な耳垢が分泌されると、それらは耳道内の毛に絡まったりして細菌や酵母菌の繁殖の原因となり、外耳炎を悪化させます。炎症のために、耳道は腫れ上がり狭くなって、ますます上皮の正常な移動を妨げます。

こうして外耳炎の悪化サイクルが出来上がってしまいます。

外耳炎の治療はこの悪化サイクルを断ち切る目的で行われます。

その1.洗浄

耳道内の毛をある程度除去し、耳道を洗浄します。耳垢は溶解液でふやかした後に柔らかいカテーテルなどを使って優しく洗浄します。いずれ詳しく説明しますね。

その2.微生物を減らす

耳垢を検査し、悪化させている細菌や酵母の増殖を防ぐあるいは殺すお薬を使用します。耳の状態に応じて、内服薬や洗浄液、点耳薬などを使います。

その3.炎症を抑える

抗炎症作用のある内服薬や点耳薬を処方します。

その4.背景にある皮膚病にアプローチ

再発を繰り返す場合、全身の皮膚病が背景にあるかもしれません。食事療法やアレルギー検査をお薦めする場合もあります。

一般的にだいたい週に1回から2回程度何回か病院に通っていただき、お耳をきれいに洗浄して点耳薬を点耳します。お家で毎日点耳していただくことも多くあります。

外耳炎の治療には根気が必要です。しっかり治して慢性化しないようにしましょう。

慢性難治性の外耳炎の治療についてはまた別に書きますね。

治らない外耳炎 ー その1、異物編 ー 耳の奥を覗いてみよう!